「ダニーデン・サウンド」―NZインディーロック80年代から現在まで
ビジネス用語の一つに「ガラパゴス化」というものがあります。その名の由来であるガラパゴス諸島の生態系のようにあるもの(商品やサービス等)が孤立した環境で独自の進化を遂げてしまいメインストリームから逸脱してしまう現象の事です。通常「ガラパゴス化」は「ガラケー」のように商品やサービス等について言われることが多く、文化について言われることは少ないのですが、いわば「音楽のガラパゴス化」というような現象が80年代初頭のニュージーランドで起こっていたように思われて仕方がありません。それが今回の本題である「ダニーデン・サウンド」なのです。
ダニーデン・サウンドとは何か
ダニーデン・サウンド成立の契機
ダニーデンはニュージーランド(以下NZ)の南島の南側であるオタゴ地方に位置する町です。後述のダニーデン・サウンド成立の契機となるNZ最古の大学であるオタゴ大学がある学生街でもあります。なぜ80年代初頭のこの町において独自の音楽のムーブメントが成立したのか。その要因は二つあったと思われます。まず一つはアメリカ・イギリスからの距離的な断絶です。70年代後半、当時の英米ではもはや従来のロックのメインストリームであった純粋なパンク・ロックに固執することはなくなりニュー・ウェーブと呼ばれるムーブメントが勃興していた最中、遅ればせながらNZにパンク・ロックが上陸しました。しかしパンク・ロックがNZにおいて流行したのはオークランド(NZ最大の都市)周辺に限られていてオークランドから遠く離れたダニーデンの音楽シーンでパンク・ロックは流行ることはありませんでした。いわばダニーデンは二重の断絶にあったのです。そこでダニーデンでパンク・ロックの代わりに流行ったのはThe Velevet UndergroundやThe stooges等のパンク・ロックよりもう一回り古いサイケ/ガレージ・ロックでした。ダニーデン・サウンドを聞くときに思い浮かべられる60年代の面影はここに由来するものでしょう。こうしてメインストリームからの距離的な断絶があったことでニュー・ウェーブと同時的に再ガレージ/サイケ的な音楽を作り出すことができたわけです。そしてもう一つダニーデン・サウンド成立の一端を担ったのが"カレッジ・ラジオ"の存在だと言えます。前述のオタゴ大学にて1984に開設された学生ラジオ局"Radio One"やクライストチャーチ(NZ南島の都市)で運営された学生ラジオ局は"The clean"や"The bats"等のダニーデン発のバンドの曲を挙って流しました。同時期にアメリカのカレッジ・ラジオがインディー・ロックシーンの発展に貢献したのと同様にNZのカレッジ・ラジオはダニーデン・サウンドの人気を決定づけました。こうして距離の断絶、カレッジ・ラジオという二つの要因は偶然に一つの特異な音楽のシーンを作り上げたのです。
ダニーデン・サウンドの音楽的特徴
前述の通りダニーデン・サウンドはサイケ/ガレージ的方向性を持っているわけですが、英米系のサイケ/ガレージリバイバルと完全に同一視できない音楽的特徴を持つのも事実です。ダニーデン・サウンドのルーツであるサイケ/ガレージのような明瞭さ、鮮やかさとは大きくかけ離れた"あやふやさ"、"ゆるさ"が常に付き纏っているとでも言えばいいでしょうか。このダニーデン・サウンド特有の"あやふやさ”は歌っているのか喋っているのかわからない不明瞭な歌、自らを主張することなくただ一定のフレーズの繰り返しに徹するリズム隊、格安の録音環境から生み出されるローファイ感、これらの様々な要素が複雑に絡み合って生まれるのです。そして最も大事なことはその"あやふやさ”が意図されて―何らかの音楽シーンのカウンターとして生み出されたものではないということです。ましてや薬物によるトリップ体験を音楽によって具現化しようとする試みによるものでもありません。"あやふやさ"の背景にあるのはNZ特有の「俺たちは俺たちで音楽をやっていこうぜ」と言わんばかりのDIY精神、そしてダニーデン・サウンドのアーティスト達が過ごしてきたNZの大らかで寛容な社会的環境だと思います。"あやふやさ"は"大らかさ”、"穏やかさ"と言い換えても差し支えは無いでしょう。この特殊な"感覚”こそがサイケ/ガレージ・ロックとの一番の違いだと私は思います。
70年代末~1980年代
・The Clean
1978年に結成された「ダニーデン・サウンド」を一躍有名にした現在も活動を続ける大御所バンドです。気だるいボーカル、テンションの下がったギターから繰り広げられるコードプレイ、一定のパルスを刻み続けるベースとドラム、腑抜けたコンボ・オルガンの音、底抜けにポップでゆるい「ダニーデン・サウンド」の典型例がここに見て取れます。当時のNZのトップチャートを賑わせた"Boodle Boodle Boodle"と"Great Sounds Great(中略)"の二つのアルバムを収録した"Compilation"がおすすめです。
The Bats
The Cleanと並ぶダニーデン・サウンド最重要バンドの一つです。男女のツインボーカルから繰り出される幻想的なハーモニーとニュー・ウェーブと近似するような演奏の緊張感はThe Cleanの完全なるゆるさとは無縁ですが、やはり作風に共通するのは聴く者を包み込んでくれるような大らかさです。音楽性もダニーデン・サウンドのバンドの中ではかなり広い方で最近は作風がドリーム・ポップに寄ってきています。"Daddy's Highway"は初期ダニーデン・サウンドを語るには外せない名盤だと思いますが、個人的に挙げたいのは"Silverbeet"です。その中でも"Before The Day"と"Courage"がお気に入りです。
The Verlaines
彼らは一言で言えばダニーデン・サウンド史上「最高のひねくれもの」達でしょう。彼らには最早同期達のようなストレートなギター・ポップをやる意志がありません。意表を突くコード進行、クラシックから影響を受けた見慣れない楽曲展開、様々なインストルメントの大胆な導入、散文詩のような歌詞。これだけの要素をミックスしてもなお失われないキャッチ―さが彼らの非凡な才能を証明しています。ダニーデン・サウンドの実験的、芸術的可能性を示すことに成功した彼ら無しには後述のAble TasmansやThis Kind of Punishmentは存在しなかったことでしょう。1987年に彼らがリリースした"Juvenilia"は彼らの出世曲"Death And The Maiden"等が収録された珠玉の名盤です。
The Chills
最も海外で成功を収めたダニーデン・サウンドのバンドであるThe Chillsは1980年に結成されたバンドです。The Velvet Underground直系のサイケ・フォークに美しいコーラス・ワーク、The Jesus and Mary Chainにも似たメロウなサウンドはThe CleanやThe Batsのような"広大な草原の穏やかさ"というよりかは"大海原に包まれる感覚を覚えます。NZのヒットチャート1位となった”Submarine Bells"や"Kaleidoscope World"は言うまでもない名盤ですがここは彼らの久々のカムバック作品となった"Silver Bullets"をおすすめしたいと思います。
Toy Love
The EnemyというNZ最初のパンク・ロックバンドが何人かのメンバーを入れ替え1978年にToy Loveと名前を変えたのが始まりです。僅か2年間の活動でしたが後進のダニーデンのアーティスト達に多大な影響を与えました。ポスト・パンクに影響を受けた明るいギターリフに乗せたどこかほんわかした歌声はダニーデン・サウンドの中核をなす"あやふやさ"の原型を感じます。余談ですがフロントマンのChris KnoxはToy loveを解散したのち同バンドのドラマーであたAlec BathgateとTall Dwarfsというデュオを結成したり、ソロ活動を行ったりして2009年あたりまでNZのロック界の重鎮として君臨していました。2年間に出したヒット曲を全て収録したコンピレーションアルバム"Cuts"がおすすめです。
Straitjacket Fits
1986年に結成された中期ダニーデン・サウンドの代表バンドです。正統派ダニーデン・サウンドを継承しつつも同時期に勃興したUSオルタナティブ・シーンの影響を色濃く反映したサウンドが特徴です。歪んだギターの壁とも言うべき轟音の中にリバーブがかけられた官能的な歌声が溶けていく様はシューゲイザーの萌芽さえも感じます。ダニーデン・サウンドのバンドは比較的ツインボーカルが多いのですが、Straitjacket Fitsほど効果的に使えているバンドはないでしょう。同じ官能的ではあるが甘いAndrew Broughの歌声、聴いてる者の耳をえぐるような鋭いShayne Carterの歌声のどちらもStraitjacket Fitsにはなくてはならないものです。Andrewが1991年にバンドを抜け、2020年にこの世を去ってしまった結果ダニーデン・サウンド史上最高の双頭ボーカルはついに復活することはありませんでしたが、彼らが残した多くのマスターピースはなお後進の世代に感銘を与え続けています。"Melt"は彼らの魅力を十二分に堪能できる不朽の名盤です。
Sneaky Feelings
1981年に結成された彼らはThe BeatlesやThe Byrdsをバックボーンに持つサウンドが特徴です。同期のThe Cleanのようなローファイ一辺倒ではなくローファイ感と音の空間を広く利用したハイファイ感の両方を駆使して「音響のダイナミクス」を作り上げています。初期ダニーデン・サウンドのバンドの多くがひねくれたポップセンスを持つ中で、彼らだけは純粋なポップを求めていたようでそんな彼らの真摯な態度はコンピレーションアルバム"Send You"から垣間見えます。youtu.be
This Kind of Punishmnet
僅か5年しか活動していない彼らですがなんとダニーデン・サウンドのアーティストでは珍しく全アルバムがApple Musicでストリーミング配信されていました(爆)。それだけ彼らの曲が評価されている証でしょう。彼らの作風の根底には徹底したミニマリズムがあります。おそらくThe Velvet Underground、Terry RileyやLa Monte Youngのような"気だるいミニマリズム"の影響でしょう。ダニーデン・サウンド特有の"ゆるさ"も彼らの前ではThe Cleanのような明るい"ゆるさ"ではなく一種の惰性のような"消極的なゆるさ"になってしまいます。しかしただ怠惰なだけではなく、彼らの曲には怠惰を乗り越えた後のカタルシスが存在するのです。彼らのスタジオアルバム"A Beard of Bees"はそんなThis Kind of Punishment流のカタルシスが存分に味わえる一作です。ぜひアルバムの最初から最後まで通して聴いてみてください。
The Jean-Paul Sartre Experience
後に本当にサルトル(20世紀フランスの哲学者・作家)の財団に訴えられJPS Experienceと名前を変えた彼らの特筆すべき点は作風の激変ぶりでしょう。1986年に発売した彼らの最初のアルバム"Love Songs"ではSyd Barrett在籍時のPink Floydのような60年代サイケデリック・ロックの風情を漂わせた曲が主でしたが、1993年に出した最後のアルバム"Bleeding Star"ではUSオルタナティブロックやシューゲイザーに接近した作風に変貌しました。彼らの音楽の歩みを知るなら両方のアルバムを聴いてみてください。余談ですが彼らはNZインディー・シーンで最もおもしろいPVを撮るバンドです。彼らの魅力あふれたPVもあわせてチェックしてみてください(爆)
Look Blue Go Purple
The CleanやThe Batsと並び初期ダニーデン・サウンドの典型的バンドとされるのがこのLook Blue Go Purpleです。透き通ったボーカル、ナチュラルなコーラスがかかったギター、幻想的なコンボオルガンやフルートの音色、そしてそれらをしっかりと繋ぎとめる骨太なベース音。浮遊感がありながらも地に足の着いた"疾走感"、"爽快感"が味わえるのは彼女たちにしかできな所業だと思います。"Look Blue Go Purpleサウンド"に必要な不可欠な骨太ベースを提供してくれるKathy Bullはバンドの解散後後述の3DsやGhost ClubのベーシストとしてNZのインディーロックを支えていく存在となっていきます。有難いことに彼女らの全スタジオアルバム3作品と未公開音源をまとめたコンピレーションアルバム"Still Bewitched"がリリースされたので彼女らの作品に興味があるのなら是非聴いてみてください。
Bird Nest Roys
初期ダニーデン・サウンドから中後期ダニーデン・サウンドへの移行の狭間に存在したのが彼らBird Nest Roysです。その作風はThe CleanやThe Batsの延長線上にありながらもいち早くR.E.M.等の黎明期USオルタナティブロックやニューウェーヴの音楽性を取り入れた先駆者であると言えます。大所帯のバンドであることを活かした重厚なサウンドもNZのインディー・シーンでは珍しいです。
Able Tasmans
The Verlainesと並んで芸術性溢れるダニーデン・サウンドを数々と作り上げたのがこのAble Tasmansです。室内楽的アプローチによるピアノ、ストリングスやブラスの導入、SEの駆使、"Hold Me 1"や"Hey,Spinner!"で見せる小節やテンポに囚われない自由奔放なプレイ、韻を踏んだナンセンス詩、ポエトリーリーディング等彼らの特異性は枚挙に暇がありません。実験的要素が多いのにもかかわらずキャッチ―さを失わない作曲センスはThe Verlaines同様、流石というほかありません。スタジオアルバム"Hey,Spinner!"はアートとしてのダニーデン・サウンドの一種の到達点を示した名作です。
90年代初頭~2000年代
3Ds
1988年に結成された3Dsは前述のStraitjacket Fitsよりも一段USオルタナティブ・ロックに近接した作風を特徴とします。ツインギターから繰り広げられる攻撃的な音を持ち味としながらもダニーデン特有のポップ・センスが随所に見られます。結成から4年目の1992年にアメリカでツアーをしたり、NirvanaやPavementのニュージーランドツアーに同行したり中々海外ウケがよかったように思われます。初期衝動溢れる"Hellzapoppin'"もおすすめですが彼らのアコースティックで優しい一面も覗ける"The Venus Trail"をここではおすすめしたいです。
Garageland
正統派ダニーデン・サウンドの継承者として彗星のごとく現れたGaragelandは1992年に結成されたバンドです。他の中後期ダニーデン・サウンドの例に漏れずUSオルタナ・シーンの影響を受けていますが、サウンドを全体的に支配する"あやふやさ"、"能天気さ"にリアルタイムで彼らを追いかけていたリスナーはThe Cleanの面影を見ていたことでしょう。コンピレーションアルバム"Last Exit to Garageland"は彼らの「ダニーデン・サウンドはあくまでもポップでなければならない」という宣言の表れです。Blur等を愛聴する人におすすめします。
High Dependency Unit
ダニーデン出身の彼らですが、通常のダニーデン・サウンドのバンドとは一線を画した存在であると思えます。彼らは先人たちの後追いをせず、自らの音楽をやり始めたからです。モタらない寸前まで溜めた重量級のドラムビートとドローン音と勘違いするほどの唸るベース音の上に繰り広げられるのは緩やかさと過激さを兼ね備えたアンビエントなギターサウンドの"渦"です。そこに絶叫とも言えるボーカルが加われば最後彼らの世界は制御不能となります。所謂ポスト・ロック系統の作風ですがダニーデン・サウンドの総本山である"Flying Nun Records"レーベルの出身のためここに掲載しました。ポスト・ロックファンであるならば彼らの最高傑作"Fire Works”を聴いて損はないと思います。
Bailter Space
以前はThe Gordonsという名前で活動していた彼らはダニーデンから少し離れたクライストチャーチ出身のバンドです。以前は「南半球のSonic Youth」と評されるほど過激なノイズロックを領分としていた彼らですが90年代に方針転換を迎え、歪んだギターサウンドを用いて初期ダニーデン・サウンドから脈々と受け継がれるポップ・フィーリング溢れる曲を構築する作風へと変わりました。活動歴としてはThe CleanやThe Batsとあまり変わらない彼らの作風からはそんな同期達へのリスペクト―模倣としてではなくそれを受容したうえで超えていこうとする態度―が伺えます。彼らがFlying Nun Recordsから出した三部作"Robot World"、"Vortula"、"Wammo"は方針転換後の彼らの音楽を存分に堪能できる名盤です。
The Terminals
前述のGaraglandがThe Cleanの正当なるフォロワーだとしたら1988年に結成された彼らはThe Batsの正当なるフォロワーと言えるでしょう。彼らの作品の全体に漂う仄かな緊張感がそれを物語っています。しかしThe Batsの幻想感は彼らには無くその代わりにThe Cleanの"能天気さ"が緊張感と共存してるように思えます。スタジオアルバム"Uncoffined"はダニーデン・サウンドのお手本と言えるような作品でしょう。
Loves Ugly Children
1989年に結成されてから出した彼らのスタジオアルバムは2つしかありませんが、後進のNZインディー・シーンに与えた影響は計り知れません。私は彼らがNZで初めてグランジらしいグランジをやったバンドだと思っています。しかも彼らはPearl JamやNirvanaらに影響を受けたわけではなくそれらのバンドと同じくシューゲイザーやスラッシュメタル、ハードコア等の所謂前グランジ系音楽のミクスチャーとして"偶然"にグランジに辿り着いた"開拓者"の一員なのです。その証拠にここで紹介するスタジオアルバム"Showered in Gold"で彼らは多彩なジャンルの曲を披露しています。NZグランジのパイオニアである彼らのストレートなロックンロールソウルが詰まった珠玉の名盤です。
Die! Die! Die!
ド直球なバンド名を持つ彼らはデビュー当初からSlintやFranz Ferdinandら大物とツアーを回ったり来日経験があることから日本のコアなロックファンには名が知られている存在です。彼らの音楽性を後-パンク系ロックのリバイバルと言ってしまったらそれまでなのですが、誰もが若気の至りとして隠蔽されてしまうどうしようもなく真っすぐな"初期衝動"をこれでもかというぐらい楽曲にぶつける姿は他のリバイバル系バンドにはない彼らの特異性だと思います。彼らの名を不動のものにした"Promises,Promises"は必聴です。
2010年代~現在
Ghost Wave
個人的一推しバンドです。たまたまFlying Nun Recordsから出た彼らの1stアルバム"Ages"を見つけて聞いてみたのですが「うわっ!The Cleanやんけ!」と叫んでしまうぐらいに偉大な先人たちのエキス100%でした。最初見つけたときは全然名前も知らない状態であまり期待をしていなかったのですが(爆)。古き良き初期ダニーデン・サウンドを現代のミュージックセンス、録音環境によって再現するだけではなく"あやふやさ"と"爽快感"の両立に成功させた彼らはこれからのNZインディー・シーンを引っ張ていくバンドになるだろうと確信しています。
Surf Friends
Ghost Waveと並んで新世代ダニーデン・サウンドの旗手として挙げられるのがこのSurf Friendsです。ダニーデン・サウンドを現代に再構築させた点はGhost Waveと同じなのですが彼らのサウンドの特徴は海中を再現するかの如く多用された大胆なリバーブにあります。まさにバンド名通りと言ったところでしょうか。リスナーをあたかもオークランドの海中でシュノーケリングをしてるかのような感覚にさせます。そして何よりもNZのインディー・シーンが歩んできた様々なジャンル―ポスト・パンク、シューゲイザー、ポスト・ロック―が垣間見えるのはGhost Waveには無い点だと思います。最新アルバム"Doing Your Thing"がおすすめです。
Tiny Ruins
今やNZ音楽界の注目株となったTiny RuinsはHollie Fullbrookを中心としたドリーム・ポップ、サイケ・フォークバンドです。彼らの音楽を聴くものはだれしも静かに揺れるアコースティックギターとファンシーな歌詞を優しくささやくHollieの声が混ざり合う"永遠の今"を経験することでしょう。Courtney BarnettがHollieのことを卓越したソングライターと評していましたが、まさにその通りだと思います。歌唱力、作曲能力、作詞能力と全てにおいて非凡な才能を見せる彼女が率いるTiny Ruinsの初来日が心待ちにされます。2014年に発表された"Brightly Painted One"は彼女の魅力が最も詰まったアルバムだと思います。
T54
最後に紹介するのは私がささやかな期待を寄せているT54です。Ghost WaveやSurf Friendsが初期ダニーデン・サウンドに回帰していく中、中後期NZインディー・シーンに代表されるようなUSオルタナティブロックと融合した"あやふやさ"と"焦燥感"の両立、それをひそかに継承していたのが彼らだと私は思っています。Bailter SpaceやLoves Ugly Childrenのブーミーなサウンドを多少さっぱりさせてキャッチ―さを持たせてるのも魅力です。私が彼らに寄せている"ささやかな期待"とは彼らの復活への期待です。実は2013年にデビューアルバム"In Brush Park"をリリースしたのを最後にレコーディングを行っていないのが彼らの現状なのです。解散のアナウンスはされていないのでまだ活動しているものだと思われますが(Facebookは2019年の更新が最後でした)。何はともあれ彼らの新しい作品が待ち望まれます。負けるなT54!
最後に
最後まで私の駄文を読んでいただきありがとうございました。少しでも私の敬愛するNZのインディーロック・シーンに興味を持っていただければ幸いです。色々取りこぼし等あると思いますがあくまでも素人の主観によるレビューなのでご容赦ください。
脇沙汰